シロギス(白鱚) ひと時の休息に「エッセイ」をご用意致しました。


シロギス(白鱚)
 昔から「食味はシロギス、釣り味はアオギスが上」と言われていましたが、アオギスは非常に神経質な魚で、船釣りをしようにも船の影を感じただけでも逃げてしまいます。
そこで高さが1m以上もあるゲタを作り、干潟をゲタで歩きながら立って釣るという「ゲタ釣り」が考案されました。
その後、漁師が脚立を使ってキス釣りをしたところ大漁だったことから、江戸時代後半からは脚立釣りが普及しました。それ以来、夏になると浅瀬に脚立が点々と並ぶ様子が、東京湾の夏の風物詩となっていた時期もありました。
しかし、アオギスは産卵のためにきれいな砂干潟の水路が必要不可欠なのに、東京湾の埋め立てや汚染により、昭和40年代にはその魚影も消え、脚立釣りの文化も途絶えてしまいました。

ところで、キスの仲間は3属30種類ほどおり、すべて日本近海を含む西太平洋とインド洋に分布しています。
日本の沿岸に棲息するキス類には、本種のシロギスのほか、アオギス(ヤギス)、モトギス、ホシギスがいます。  
 シロギスは、北海道南部以南の九州までの沿岸部と朝鮮半島南部、台湾などに分布し、アオギスは、かつては東京湾などにも棲息していましたが、埋め立てなどの影響で紀伊半島以東のものはほぼ絶滅したといわれ、現在では、四国の吉野川河口、豊前海、別府湾、鹿児島湾の一部と台湾にのみ棲息しているようです。
モトギス、ホシギスは南方系のキスで、モトギスは沖縄本島以南、ホシギスは種子島以南に棲息し、沖縄にシロギスはいません。

砂底や砂泥底のエリアに好んで棲息し、底層部を小さな群れで回遊しています。そして、主に多毛類やエビ類、アミ類、端脚(たんきゃく)類、稚魚などを捕食しています。
産卵期は地域によって差がありますが、6〜9月頃が一般的です。水深15mに満たない浅場で分離浮性卵(海中をバラバラになって流れに身をまかせて漂う卵)を産み、約1日で孵化します。

さて、淡白でクセのないシロギスは白身で、魚偏に喜ぶという字の通り、誰にでも喜ばれる味わいのため、大変人気の高い魚です。旬は晩春〜夏で、産卵後は味が落ちますが、秋にはまた回復してきます。
江戸前では代表的な天ぷらのネタであり、ほかに塩焼き、刺身、フライ、唐揚げなどでおいしい。昆布締めや酒と塩をふって軽く乾かした一夜干しなども美味ですよ。

今日はシロギスの天ぷらで一杯なんて如何ですか?